読書推進を語る前に
知っておきたいこと
飯田一史(2023.10.29)
読書推進の議論は
健康診断を受けずに
健康増進策を
床屋談義するような
かたちになりがち.
まずは現状の把握を
読書推進の議論の
前提
目的によって
・達成したい状態
・どこが課題と認識するか
・なぜそれが問題だと思うのか
・どんな打ち手が良いのか
が変わる.
自らのゴール設定が重要であり,
他の立場の人との相互理解も重要5
なぜ読書を推進したいの?
教師,保護者:受験科目の成績UP
司書:貸出率/冊数が評価指標だから
出版業界:売上UP
文科省:PISAのスコア,順位UP
経産省:GDP増大…等々
※上記は戯画化したもの.実際には複雑で個人差も大きい
立場により目的,評価基準が違う
目的が違えば手段も変わる.
目的は「読書」で達成しなくてもいい6
なぜ読書を推進したいの?
読書の経済的価値の分析
韓国「2021年読書振興に関する年次報告」43p
読書率が1%増加すると
→総要素生産性が0.046%増加
→GDPが0.2%増加と試算
日本の読書調査,読書推進政策には
読書量増加時の影響の試算が欠如
(でも読書を増やしてGDP増やそうっ
て遠回りすぎんか?という話でもある)
■教師,保護者:
成績が上がれば読書以外の手段でも
いい(勉強時間UPの方がより重要)
■出版業界:売上UPが目的ならば
「読む量」より「買う量」が重要
今日の登壇者も各々の立場/目的が違う.
みなさんは何のために増やしたいのか?
そもそも本当に「読書」で達成すべき?
目的は「読書」で達成しなくてもいい
学力を向上させたいのか、
教養を身につけさせたいのか、
自社の本を買ってほしいのか、
ライバルと差を付けるためか、
子を望む将来像に近づけるためか…
「読書推進」の目指す姿はそれぞれ.
立場ごとにできる/やりたいも違う.
前提の違いをお互い認識するべき9
目的が違うと望む「読書」の姿が違う
本発表者の立場、スタンス
①出版業界の人間である
出版業界が儲かると恩恵がある.
出版物の売上が増える方が望ましい
②子を持つ親である&納税者である
エビデンスに基づく、より効果的な
教育や図書館に関する政策を望む
③現場にいる人間ではない
図書館や書店で読者と接していない.
統計や研究から正しい現状認識を提供.
課題,方策を考える「前提」を共有したい.
本好きは読書が目的化している.
他の行為より読書を優位に置き、
無前提に「すばらしいもの」と認識.
しかし、なぜ読書がよいのか、
ほかの行為と比べてどうよいのか、
なぜ政策的に取り組むべきなのか、
これらを示して初めて動く人もいる.
読書推進にはこの人たちの説得も必要11
目的が違うと望む「読書」の姿が違う
日本人の1か月に読む本の冊数
月7冊以上読む人は全人口の3% 文化庁「国語に関する世論調査」平成30年度
全人口の3%の少数派である多読者が
97%の読書推進を考えているが、
読まない/読めない人への無理解が横行
本好きの実感に寄った思いつきも横行.
ファクトや先行研究が無視されすぎ.
マクロのデータと現場の経験は両輪に!
なぜ読書推進の目的の確認が重要か
①立場によって目的が異なる点に無知
だと話がかみ合わず,現場や政策・施策
の論議で妥協点を見つけられない.
②書籍の読書量が月2冊以下の人が9割.
9割の気持ちや認知を理解しない語りは
月7冊以上読む3%のラウドマイノリティ
の間のエコーチェンバーに終わる.
③他の行為・施策との定量的な比較なき
「本は良い」語りでは全体最適重視の
政治や役所,教育現場を動かす材料不足.
議論の前に
知っておきたい
読書推進の常識
1.マクロのデータ編
書籍不読者は小中高で00s以降減
書籍読書量は小中学生=過去最高
高校生や大人=横ばい
雑誌/書籍は分けて考えないと×
雑誌の平均読書冊数は激減,不読率も上昇
「ネットやスマホ普及で活字離れ」は不正確
・濱島幸司氏:学生生活調査をデータ分析
読書習慣の有無とスマホ利用時間にほぼ
相関なし(「図書館雑誌」2019年11月号)
・文化庁「国語に関する世論調査」でも
スマホ普及以前/以後で
成人の不読率に変化なし
雑誌読書量への影響は考えられても
書籍の読書量への影響は軽微
「若者の本離れ」は誤り
正確には「雑誌」離れのみ
かつ雑誌離れは大人も同様
「書籍」の読書量/率はV字回復
読書量/率は子ども> 大人
書籍は月2冊以下の大人が長年9割
現在小学生は月13冊,中学生は5冊
(韓国,中国でも子ども>大人は同じ)
「若者の本離れ」は誤り
ただし
雑誌を買わなくなった
→書店への定期的な来店が減る
→店に来ないから書籍売上も減る
という現象は起こった(児童書以外で)
しかし、これは「読書」推進ではなく
「来店」推進、「購買」推進の問題
「読む」と「買う」は別の話
「若者の本離れ」は誤り
「雑誌」と「書籍」は別の話
「読む」と「買う」も別の話
「小中」と「高大・大人」も別
分けて認識・議論すべき
書籍読書のV字回復の背景
1997年学校図書館法改正
→司書教諭の原則配置
1999年講談社全国訪問おはなし隊開始
2000年ブックスタート開始
2001年
子どもの読書活動の推進に関する法律 制定
→自治体に読書推進計画を義務付け
2005年文字・活字文化振興法
2014年学校図書館法改正
→学校司書の配置が進む
過去四半世紀の施策は成果を得てきた
官民挙げての読書推進の効果
「朝の読書」実施校推移
(各年の5月末日時点)
トーハン「朝の読書のあゆみ」より
PISA2000発表
PISAショック
PISA
=OECD加盟国の15歳の
学力到達度調査.
日本は00年,03年に
読解リテラシーが
フィンランド等に
負けた
OECD参加国と日本の15歳(PISA)
・「趣味で読書することはない」
01年日本55% OECD平均32%
18年日本45% OECD平均43% →改善
・「読書は大好きな趣味のひとつだ」
18年日本43% OECD平均34%
・読む本の種類(2018年)
フィクション日本42% 平均29%
コミック日本55% 平均15%
雑誌 日本31% 平均19% →平均以上
少子化でも児童書市場は堅調
朝読の定量的インパクト(試算)
1日10分読書を全国で行うと?
小学校の83%で実施
※「朝の読書」全国都道府県別実施校数2023.5.31
児童数605万×0.83=502万
※児童数は文科省 令和5年度「学校基本調査」による
2か月に1冊,1年6冊なら
502万人×6冊= 年間3013万
政策は読書の強大な媒介者
朝読の定量的インパクト
韓国「2017国民読書実態調査」17p
小・中・高での朝読の参加/非参加者の差
■読書率
参加96.0% 非参加88.6%
■年間の平均読書冊数
参加46.9冊非参加15.6冊
→読書量が3倍違う
マクロに変えるには政策が重要
読書推進の議論は現場の工夫
と思いつきに終始しがち.
現場の経験則も無論重要だが
業界団体を通じて政治家や
官僚,自治体に訴える